最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)865号 決定 1951年6月01日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人近藤亮太の上告趣意について。
刑訴三〇一条は、被告人の自白を内容とした書面が証拠調の当初の段階において取り調べられると、裁判所をして事件に対し偏見予断を抱かしめる虞れがあるから、これを防止する趣旨の規定と解すべきである。されば単に右の書面が犯罪事実に関する他の証拠と同時に取調が請求されただけで、現実な証拠調の手続において、他の証拠を取り調べた後に右自白の書面が取調べられる以上は、亳も同条の趣意に反しないものといわなければならない。次に同条に定める「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた」後という意味についても、必ずしも犯罪事実に関する他のすべての証拠が取り調べられた後という意味ではなく、自白を補強しうる証拠が取り調べられた後であれば足りると解するのを相当とする。ところで本件第一審公判調書によれば、検察官は被告人の自白を内容とした書面三通、即ち被告人提出の供述書、被告人に対する司法警察員作成の供述調書及び被告人に対する検察事務官作成の供述調書を犯罪事実に関する他の証拠と同時に取調請求をしたが、第一審裁判所は右供述書を取り調べるに先立ち、本件関係人長谷川義三の供述書及び同人に対する司法警察員作成の供述調書(いずれも被告人の自白を補強する証拠)を取り調べたこと、並に前記の被告人に対する供述調書二通については、すべての、証拠書類の取調を終えて後に取り調べたことを認めうるのである。されば刑訴三〇一条に関する前述の説明に徴し本件証拠調の請求手続及び証拠調手続には何等所論のような違法はないものといわねばならない。
要するに論旨は、刑訴四〇五条の上告理由に当らないことは勿論、同法四一一条を適用すべき事由あるものとも認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号に従い、裁判官全員一致の意見によって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)